ことし初めてのいちじくを食べた。おいしいおいしい。果物のうちではいちじくがいちばん好きかもしれない。産直でお会計の際に、レジの方から手が綺麗ねとほめられた。うれしいんだけれど、そのおばちゃんが自身の手を低く表現しながら言ってくださったことで、とっさにうまいフォローを思いつけたらよかったな……。地元と隣の市から届くメールでの感染例報告が、きょうはどちらもびっくりするような数字だった。子供まで含まれており、後遺症が残らなければよいがと少し気が沈む。もう買い物であっても人のいる空間へ滞在することはできるだけ避けようか。『ナイト・オン・ザ・プラネット』観た。五つの街それぞれで同じ時刻に繰り広げられる、タクシーの中での出来ごと。みんなたばこに火を付けるタイミングがよく、喫いかたも堂に入っていた。一番目のロサンゼルスのパートでは、運転手の若い女性が客の婦人に火を貸す場面があるのだけれど、そこには急にくだけた距離感が生じていて、ああいいなあと思った。ていうかその運転手が魅力的だった。ほっぺたに車の汚れかなにかを付けたまま、まったく頓着せずに仕事を楽しくこなしてる。降って湧いたチャンスに飛びつくことはなく、自分の人生計画に沿って行動している。婦人もこの相手を尊重すればこそ、スカウトを持ちかけてもそれを強要することはなかったんだろう。それなら婦人は電話番号でも渡すのかなと思っていたら、別にそんなことはなく別れて、おしまい。物語は五つともこんな感じ。いっときふれ合ってまたするっとほどける、かさついてはいるけれど心地よい特有の距離感が通底していた。ほか、三番目のパリでのやりとりが好きだ。盲目の女性客とやりとりをするなか、序盤の客からひどい侮蔑を受けたコートジボワール出身の運転手に、誇りのある柔和な表情が浮かぶのが、とても心地よかった。そして別れた途端に事故を起こした彼のタクシーへ耳をそばだてながら、おそらく「いわんこっちゃない」という笑みを浮かべて歩み去る女性のかっこよさ。付け足すように書くけれど、ローマのパートは悪乗りしながら撮ったんではないのと言いたくなる内容で、申し訳ないけれど神父の顔芸に笑ってしまった。死んではいないと思うのだけれど。こうした、人を求めたくなるような、たばこを喫いたくなるような映画は、ずっと観ていたいと思った。ジム・ジャームッシュという監督の作品らしい。パーマネント・バケーションとコーヒーアンドシガレッツは以前観たときにやっぱり、登場人物の距離感が心地よいなと思った映画だった。この人の作品はきっと鉱脈だから、観たいものを探すときの参照先にする。