なにもない日。母が一回目のワクチン接種を受けた。特に変わったところはないらしい。三週間後にもう一回受けるまで油断ならないにしても、疫病に対する家族の安全度が増したことに、ほっとしてる。人体の免疫系はすごいな……。あらかじめ敵(ウイルス)の情報を手に入れて学習することができれば、生身では為す術のない天然痘や麻疹を撃退できるんだもの。その潜在的な防御力に驚く一方で、こうした機構に目を付けてうまいこと予習教材を与える知恵を編み出した人類にもびびる。治療でなく予防してしまう強さだ。僕にも早いとこ接種の順番が回ってくるとよいな。取り寄せた一重のくちなしには初めアブラムシがついており、鉢へ植え付ける際にオルトランを与えたのだった。その鉢を金曜の雨の中へ出しておいたおかげで、死んだアブラムシはおおかた洗い流され、蕾にはつやが見えるようになった。こうした被害に対しては、手作業であれば割に合わない労力が発生するところだと思う。それはそれとして、不必要な殺生をすると心が痛むようになったのは、歳のせいなんだろうか。むかしはロケット花火にかえるをくくりつけて打ち上げるような子供だっただけに、どういう変化なんだろうと思う。少し前、庭のあけびの葉にアシナガバチの女王が巣作りを始めたのを見つけた。人が行き来する付近だったから危ないと思い、車に使う洗剤かなにかのスプレーをかけて殺したのだけれど、女王バチが地面に落ちてもがくのを見て、こんなことしたくないなあと辛かった。野生生物とこちらの人間とで利害が対立したときは、申し訳ないけれどこっちの利益を優先するよ、というのが現時点までの自分の方針。そこにここ数年で、できるだけ相手を尊重できないかという観点が入ってきたことは、いたわりなのか、後ろめたさの回避なのか、よくわからない。