青果売り場はメロンとすいかが消えて桃が減り、梨やみかん、ぶどうが並ぶようになってきた。桃が並ぶころの売り場はほかの果物も織り交ぜた芳醇な香りがして、それを吸い込むのが好きだった。世が世なだけにそうしたことは当分できないだろなあ。近隣の梨園にはことしも営業を知らせるのぼりが立った。あれを見ると実りの季節だと思う。祖父がいたころは収穫だといっては畑仕事にかり出されたり、冬が来る前に済ませたい種々の作業のために呼ばれもしたのだけれど……。祖父宅と同じ敷地内に住むいとこたちはこの秋にも地元を出て行くそうで、屋敷全体の手入れはそのあとから行いたいと母が言っていた。知っている風景が滅びゆくさみしさに慣れるまで耐えたり、新しい風景の中に居場所を手に入れたりしていくことは、わざわざ言及するまでもない人の営みなんだろう。いまくらいの年齢になって初めてこうした感覚に実感が湧きつつある。