「ミッドナイト・イン・パリ」を観た。雨の街を歩きたい気分ってあるよねえ。自分がイネス達よりギル側のひとなので、街をふらふらする彼に上手く感情移入していけた。見どころはやはりというか、過去の偉大な芸術家が生きて喋って動いてる、古い時代は常に美しい、といったところだろうか。さらりと映し出されていたものの、ギルがガートルード・スタインの「あなたには明晰な声がある。敗北主義はやめなさい」というアドバイスを受け止めて自分の原稿を書き直した経過が、個人的に核心だなーと思った。彼女の言葉があってこそではあるものの、それを頼りにギルは物語に手を入れ、その経過の中で『黄金時代嗜好』から抜け出していく。過去に心を傾けることが敗北かどうかは分からない。ただ皮肉にも、より古い時代を向いてそこに沈没を決めたアドリアナとの別れにより、自分のいまを生きていくギルの意志が浮かび上がるところが、ああ別れだなーという思いがして微かに辛かった。その辛さはラストの雨降りが優しく癒してくれたのだけれど。あらゆる時代に現代がはびこることや、それと向き合っていまを生きていく、というテーマは普遍のものなのかもね。観てよかった。あと、ベル・エポックの時代に迷い込んで勝手に冒険が始まってそうなあの探偵は、それからどうなるん……。よき時代の女性たちが手に手に携えていたシガレットホルダーが、どれも美しく華やかで、ちょっと欲しくなった。煙突みたいにたばこを喫っていたころ、手巻きたばこの旨さをより良く味わうために、海泡石で成型されたメシャムホルダーを使っていた。ホルダーはヤニ取りのお手入れがそこそこ頻繁に必要な道具なのだよね。