満月。
日没に取り残された青い気配が、その黒さを増して夜を運んでくるころ、メルツェルたちはとっくに張り終えたテントの中で風と砂とを避けながら、ささやかな焚火を囲んでいました。それで夕餉やお茶の準備をしたり、冷え込む沙漠の夜をやり過ごそうというのでした。
砂混じりの風がテントを叩く音や座り込んでいるらくだたちのしわぶき、火が爆ぜる音や食器の触れ合う音、ときおり交わされる小さな会話だとか途切れ途切れな楽器の音色など、夜の沙漠では様々な音が身近に、また安心できるものに感じられるのでした。
宵闇が深まるにつれ、夜気が降りてくる様子を皆で感じ取りながら、誰かが炭を一つ二つ火にくべました。その拍子に外の空気を吸おうと、明かりを持たずにテントから出たメルツェルは、空を見上げてはーっと息を呑みました。そこには沙漠の砂ほどの星々が輝いていたのです。