落とした財布を警察署へ届けて下さった方がいた。夕方、スーパーでお会計をするときに財布を持っていなかったことに気づき、断りを入れて駐車場の原付まで戻るもそこにはなく、いったんうちへ帰って探しても見当たらないので、とりあえずお金を持ってまたスーパーへ戻り、取り置いていただいていた買い物をお会計。行き帰りに路上もチェックしたものの財布は落ちていなかったし、個人的にはうちのどこかに置き忘れているのではという疑いがあったのだけど、こういうときは一応基本かなと思ってとくに期待もなく警察署へ遺失物届を出しに行った。日曜の宵でひとけも希薄なロビーにて、歩み寄ってきた女性の職員さんに「どうされました」と訊ねられてあれこれ説明し、これで届出を作るのかなという感じで一通り話した。「落とした財布を自分のものだと証明するようなことはできますか」という質問に「自分の名前が入ったカード類が何枚か入っているのでそれで証明できると思います」と伝えるとわずかに間があり、「じつは、届いています」と笑顔で言われた。思わず「あ~」とため息をつきながらしゃがんでしまった。経緯を伺うと、自分はスーパーへ向かう途中の交通量の多い交差点で、ポケットから財布を落としたらしい。それを目撃していた前方の車両の方が、現場へ立ち止まって財布と散らばったカード類を拾い集め、この警察署へ届けてくださったとのこと。その方は届け出に自分の名前や連絡先を載せることはしなかったそうだった。遺失物届と受け取り書の両方を作成していただくのに少し待った。「入っていたお札はぜんぶ吹き飛ばされて拾えなかったそうなんですが」と職員さんは付け加えてくださったけれど、保険証/免許証/キャッシュカードやクレジットカード/診察券といったものはみな無事に揃っており、「こういうのを再発行となるとすごく大変ですし、これでよいのではないでしょうか」と言われ、その通りでほんとうにほんとうになにより……。見知らぬひとの優しさに助けられた日だった。自分が受け取ったこの優しさを、普段の生活の見知らぬひとたちへ少しずつ還元するかたちで、お礼とすることができたらよいな。
それから、内田和俊『レジリエンス入門 折れない心のつくり方』(ちくまプリマー新書)を読み終えた。レジリエンス=心の筋力、自然治癒力のようなもので、もとは物理学でのストレス(外圧による歪み)の対義語(その歪みを跳ね返す力)、とのこと。ネガティブな気分からいかに立ち直り、その過程でメリットを享受するかについてが書かれており、どのようにアプローチするかということ、特にものごとの受け取り方(思考や解釈)について多くが割かれていた。読んでみて思うのは、主治医の言葉や『いやな気分よ さようなら』に書かれていた内容がひんぱんに思い出されることや、長い闘病のうちに自分がいつのまにか身につけていた対処についても書かれていたりと、ばらばらだったものが一連のプロセスに整理されたと感じたことだった。若い読者を想定しているように思われたけれど、自分も読んですぐに、そして人生で長く役に立ちそうな内容。読んでよかった。