神社のある高台から夜桜と町とを眺めていた。木陰の向う側で市街を見下ろすそこは、コンクリ製のテーブルと椅子が置いてある小さな空間で、暗い街灯が一本立っている。訪れる者にふわっと滞在を促すようで好きな場所だ。桜は明日あたりから本格的に散っていくところのようだった。受粉を終えて濃い色へと変わった花弁は、昼ならその美しさの少しくすんださまがよく目に付いたんだろう。煌々と月が照り星の少ない春の夜空は、街明かりのためか砂塵なのか、遠く南西の方角が夜目にも霞んでいた。そちらの地平線に沿った送電線の、赤くゆっくり点滅する航空障害灯の連なりが、視界の中で確実に呼吸するもののように、安心感をまとって見えた。そうしてふっと思い出す。2011年から翌年にかけ大阪で生活していたときも、部屋の窓から見える夜景のビル群に赤いランプが点滅するのを、ぼーっと眺めたりしていたんだった。そういうの、風景が脈打つようで飽きなかったな。しばらく突っ立っていると、男性の二人連れが談笑しながら後ろの歩道を通り、足もとの石段を下りていった。例年通りまだ肌寒い夜風や、人通りのない路上を往く車の音に、満たされるような侘びしさを思う。
NHKR1によれば、政府が明日、緊急事態宣言を発表する予定だとか。社会機能を維持する、なんて言葉を今日はラジオで二三回聞いた。疫病は今後更に流行るだろうけれど、治療薬やワクチンが流通するまではなおのこと、風景を楽しめる心の余裕は持ち続けたいなあ。
『ムーミンパパの思い出』を読み終えた。なにかに呼ばれて海岸へ下りていく、みたいにパパが最終章で言及した「魔法の感覚」って、一家のお話としては最後の『ムーミンパパ海へ行く』で、ムーミントロールに受け継がれていることが当り前みたいに描かれてる。