那須颪の吹きすさむ日。尾瀬や只見の方角から押し寄せる雪雲が、茶臼岳から塩原や高原山のあたりに波濤を巻き上げ、平地のこちらまで押し寄せてくるかのように白く荒ぶっていた。
夕方近くに祖父の元を訪れ、少し雑談をした。祖父は天屋(物置)を取り壊す作業に指示を出したりしているうち、体調を崩してしまったらしい。そのせいで上の前歯が一本抜けたと言ってマスクをずらし、僕に見せてくれた。納豆を噛むとその隙間から豆が逃げるから、食べるのが大変なのだとか。この人は八十七歳になってなお二十数本もの歯を自前で残しており、いまは下痢で寝込んでこそいるものの、ふだん身の回りの作業などをおおむね一人でこなしている。全くすごいことだと思う。野菜を貰い、祖父も動き回れるような気候のよい日にまた来る、と伝えて帰路。